東京高等裁判所 昭和25年(う)3475号 判決
本件控訴の趣意は、末尾添附の検事高橋正八作成名義の控訴趣意と題する書面のとおりであつて、これに対して当裁判所は次のとおり判断する。
原判決を精査するに、原判決が、検事所論のごとく原判示事実を認定し職員工員を通じて各支払期日毎に包括の一罪を構成するものと認定したと説示していること判文上明らかである。
然し乍ら労働基準法第二十四条第一項第二項によれば、賃金は原則として通貨で直接個々の労働者に毎月一回以上一定の期日を定めて支払わなければならないのであるから、これに違反して賃金の支払を怠つた場合を罰する同法第百二十条第一号の罪は、賃金の支払期日毎に賃金の支払を受くべき労働者の数に応じて各労働者一人毎に独立して成立するものと解すべきであつて、各労働者の数と支払期数に相当する数の併合罪として処断するのを相当とする。蓋し元来労働基準法が罰則を設けて労働賃金の不払を処断する所以は、各労働者個人の生活権を保護する趣旨換言すれば労働者は概ねその日その日を労働賃金によりてのみ生活して居る者であるからこれが不払によりその生活不能に陥ることのないようにこれを保護しようとする趣旨に外ならないからである。然るに原判決が、判示の如く右と反対の見解に立ち労働基準法第二十四条の違反による同法第百二十条第一号の罪を以て職員工員を通じて各支払期日毎に包括の一罪を構成するものと認定する旨説示したのは正しく同法の解釈を誤つたものであつて此の誤りは本判決に影響を及ぼすこと明白であつて、論旨はその理由があり原判決は到底破棄を免れない。